セブンアンドアイのお家騒動に思う

2016/04/1516:46

 

先週は、セブンイレブンのお家騒動が新聞各紙面を賑わせました。
名経営者として誉れの高かったセブンアンドアイホールディングス(以下「セブンHD」)の鈴木敏文会長が、子会社であるセブンイレブンジャパンの井坂社長を退任させようとしたが、セブンHDの指名委員会において社外取締役2名の賛成を得られず、さらに指名委員会で可決できなかった当該人事案を取締役会決議に諮るという強硬策に出たが、これも可決することができなかった(賛成7、反対6、棄権2であり、過半数の賛成を得られなかったため否決)という一連の事態です。この結果を受けて、鈴木会長は自ら会長職も取締役も退任することになりました。

報道ではさらに、この騒動の発端は、アクティビスト株主として有名なアメリカのサードポイントからの書簡だったとのこと。サードポイントからの書簡は、「井坂社長を退任させようという話もあるが、業績好調で多大な貢献をしている社長の更迭は理解できない」「鈴木氏の次男を将来社長にしようという噂もあるが、血縁関係を理由に幹部を昇進させることは正当化されるものではない」といった趣旨のものでした(書簡全文は、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160328-00010000-socra-bus_all)。

 

報道は、セブンHDにおいて社外取締役がその役割を果たし鈴木会長の独裁人事を止めたのであって社外取締役を中心とするコーポレートガバナンスが機能した、というような報道が結構見られますが、そんな単純な話だったのか、私は正直疑問です。何を知っている訳でもありませんが。

 

日経ビジネスオンラインに掲載されていた、4月7日に行われた鈴木会長の記者会見の全文(http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/040700304/?rt=nocnt)を読みましたが、日本を代表する大手小売業の中興の祖・名経営者として名高い人物の記者会見とは思えない、恨み節満載の記者会見でした。井坂社長は最初は退任を受け入れたがその後激昂して翻意を告げたとか、さらにもう80歳前後の顧問が二人、会見に同席し、井坂社長の激昂ぶりを語ったり、井坂社長の父親に電話をして理解を求めたりした様子を語ったり。

いずれにしても取締役会で否決されたのだから、取締役個々人(というか顧問には何の権限もないけど)の考えは多数の同調を得られなかった訳であって、にもかかわらず一連の騒動の内情を記者会見という形でマスコミに語るのは、会社に対する背信行為だと思います。
一方で、井坂社長が社長として適任でない理由について、会見の場で具体的説得的な内容が語られているとは私には思えませんでした。

そういえば、顧問の一人の後藤光男さんは、かつてM&A関係のアドバイザーとして有名だった方で、1980年代後半に騒動となったブーン・ピケンズによる小糸製作所の株買占め事件で、小糸側にて防衛をアドバイスした人物です。

 

さて、セブンHDの指名委員会は、実は会社法上の正式な機関ではなく(つまりセブンHDはいわゆる指名委員会等設置会社ではない)、任意設置の機関だということですね。この3月に設置が決まったばかりの委員会です。委員長は社外取締役の伊藤邦雄氏(一橋大学教授)で、他に社外取締役の米村氏(元警視総監)、残り二人は社内取締役(鈴木会長と、村田紀敏社長)。単なる取締役会の諮問機関との位置づけですね。

この指名委員会において、井坂社長更迭の案に社外取締役が反対したことをもって、「ガバナンスが機能した」「社外取締役制度が機能した」と見る向きが多いのですが、実際は水面下で相当の泥仕合が繰り広げられたのだと思っています。当然、井坂社長からの社外取締役に対する接触はあったと見るべきだし、井坂社長とサードポイントとの間にも接触があったのではないかとも思います。サードポイントから社外取締役に対する接触すらあったのではないかと推測します。

以前、ヒューレットパッカードを巡る取締役会での派閥争い(結局カーリー・フィオリーナCEOが敗れ退任)にあったように、米国でも水面下で社外取締役を巻き込んだ形での派閥争いが繰り広げられています。結局、こういった人事を巡る争いは、綺麗ごとでは済まない水面下での泥試合(派閥争い)がモノをいうのであって、そこに社外取締役が入っても社外取締役を巻き込んだ形で泥仕合が繰り広げられるに過ぎない、ということだと私は思います。独立社外取締役が中立公正な判断ができるという考えは全くの幻想に過ぎないと思います。

株主代表訴訟をおそれて、産業革新機構ではなく鴻海への身売りを賛成したシャープの社外取締役も、要は自分の保身のために台湾企業に日本の技術を売ることを容認したのであって、何がシャープのために一番よいのかを考えた結果ではありません。社外取締役に本当に公正中立な判断を求めるのであれば、社外取締役は原則としてその取締役としての職務執行(あるいは経営判断)について責任を負わないとする、くらいのことを明文化しないと、建前上いわれている社外取締役の役割は果たせないように思います。