加計学園問題とは何か?

7月10日、加計学園問題に関する国会の閉会中審査が行われ、前川前文科省次官や萩生田官房副長官参考人として招致されました。都議選の大敗を受けた自民党がやむなく開催に応じたというところですが、このような茶番審査で真実が分かるはずもありません。

そもそも、この加計学園のスキャンダルは、一体何が問題なのか。問題の本質の議論が置き去りにされているように思います。メディアも大衆を煽るばかりでなくもっと何が問題なのかをきちんと整理して分かりやすく説明してほしいところです。

 

報道(やネット)では、この問題の論点として以下のような点が述べられて、あるいは示唆されているようです。

  • 何十年間も獣医学部の新設を認めてこなかった文科省の「岩盤規制」は妥当なのか。むしろ既得権益を擁護しているのではないか。
  • 官邸のアクションはその「岩盤規制」にドリルを開けるためのもので、むしろ促進されるべきものではないか。加計問題で騒いでいるメディアや大衆は、それまで「岩盤規制」を崩せと叫んでいたのではないか。
  • 今回の問題は安倍政権に省庁の人事権を掌握された官僚側の意趣返しに過ぎないのではないか(陸自日報データ破棄問題に関する稲田防衛相の関与についての陸自のリークと同じ構造でしょうか)。
  • 出会い系バーに行くような前川元文部次官の発言は信じられるのか。天下り問題で次官を辞めさせられ、政権に恨みを持っているのではないか。
  • 「国家戦略特区」や規制緩和を活用し、獣医学部の新設を特例で認めることで、獣医を増やすって?特区構想ってそもそも何のためにあるのか?獣医学部新設と経済活性化にどのような関係があるのか。獣医学部の新設が悪いってことはないが、他にもっとPriorityの高い規制緩和があるのでは?
  • 獣医学部の新設が認められると私学助成金が交付されることになるが、税金の使途として妥当か?
  • 獣医学部を新設する必要があるとして、今治市加計学園のほかに京都市京都産業大学も手を上げていたようだが、一つに絞ったことの是非、及び京都ではなく今治にしたことの是非?
  • それもこれまでの獣医学部の定員総数の17%にも及ぶ160人での定員での学部新設が必要なのか?
  • 上記の問題と、安倍首相が問題発覚後に、「今治市だけに限定する必要はない。地域に関係なく、2校でも3校でも、どんどん新設を認めていく」と発言したこととの整合性?

 等々の問題です。メディアでもネットでも上記各問題のそれぞれが整理もされずに種々論じられていて、問題の本質が見えにくくなっている気がします。

 

しかし、いうまでもなく、加計学園の問題では、行政の中立性・高潔さ(英語で言えば、"integrity")が保たれていたのかが、本質として問われるべき問題です。これに相対する概念が、縁故主義というのでしょうか、日本ではあまり聞きなれない言葉ですが、英語では"cronyism"というらしく、昨今の英字新聞などを見ると加計学園の問題ではしきりにその言葉が使われています。

 

勿論、獣医学部を新設する必要性が低ければ、本来は必要性の低い事項についてお友達の要望を尊重して優先的に処理した、ということになり問題の程度が大きくはなりますが、いずれにしても間接的な問題だと思います。

 

そして、①加計学園の理事長は安倍首相の「刎頚の友」である、②それまで何十年も新設されていなかった獣医学部の新設が、加計学園(が運営する岡山理科大学)に限って認められた、③その過程で京都産業大学は選から漏れた(「それまで獣医学部がなかった地域に限って認める」という要件が新たに追加された、とも報道されていますね)、④昨日報道されていましたが、2017年1月に特区諮問会議により加計学園獣医学部新設の事業者として決定される2か月前に、山本地方創生相が「四国に新設する」旨を獣医学部に伝えた、という事実関係からすれば、世間は、「お友達だから新設を認めたのではないか?」という疑問を当然持ちます。

それが総理の直接の発言でなく、周囲が忖度したとしても大きな問題ではありません。安倍政権では行政はそういった事情を忖度してやられているんだ、ということになれば、政権は支持されないでしょう。

 

もっとも、この問題の時系列などを見れば、特区による加計学園への獣医学部新設は民主党政権時代に民主党議員主導で検討されてきた事項のようであり(加計学園理事長は当時民主党江田五月氏も仲が良かったようですね)、「理事長が首相の刎頚の友だった」という事情は単なる「偶然」に過ぎなかったのかもしれません。

http://tactical-media.net/%E5%8A%A0%E8%A8%88%E5%AD%A6%E5%9C%92%E7%8D%A3%E5%8C%BB%E5%AD%A6%E9%83%A8%E3%81%BE%E3%81%A8%E3%82%81/

しかし、それならば政権はきちんとその旨の説明をすべきだった。説明をして疑いが貼れるかどうかは勿論また別ですが、説明もしないままに参院で「中間報告」の形で共謀罪法案を強行採決してまで国会を閉会させ、この問題が追及されないようにしたという訳ですから、さらに疑惑に拍車をかける形になってしまいました。

 

愛媛県知事の方が愛媛県への誘致の必要性を熱弁し、それを見たアイドルキャスターが早速好意的に評価していましたが、そこは問題の本質ではない。仮に獣医学部を新設する必要があって、愛媛という地方を活性化する必要があっても、それと今回の問題とは別物であり、メディアはきちんとそこを整理して報じて欲しいものです。