ICO(Initial Coin Offering)のリスク。IPOとの違い。法的規制は必要か

9月4日、中国の中央銀行である中国人民銀行が、独自の仮想通貨を発行して不特定多数の投資家から資金を集める、いわゆるICOを禁止すると発表したそうです。日経新聞によれば、これよりビットコインなどの仮想通貨全体の時価総額が1日で約2兆円下落したとのこと(その結果約16兆円になったとのことなので、約11%の下落幅ということになります)。

ICOは、新規株式公開(Initial Public Offering=IPO)をもじったネーミング。IPOが、一般に新興企業が上場に際して新たに不特定多数の投資家に株式を発行して資金調達を行う(株式発行の対価として発行企業が得るのは文字通り金銭)のに対し、ICOの場合は、発行企業は株式を発行する訳でもなく、単に発行者が独自の仮想通貨を発行するに過ぎません。そして投資家側は、ビットコインなどある程度流通している仮想通貨を発行者側に払い込みます。

要は、発行体たるベンチャー企業が行おうとするビジネスを見込んで投資を行うということです。但しその結果得られる対価は、新規の仮想通貨ですから、その仮想通貨はその先海のものとなるかもしれませんし、山のものとなるかもしれません。うまく行った場合は何倍何十倍ものリターンを得られることもあるでしょうが、投資した対価として発行体の経営に(株主等の議決権を持つ形で)関与できるわけでも、株主のように事業がうまくいった場合に将来配当という形でリターンを得られるわけでもなく、リターンを得られるかどうかは単に受け取った仮想通貨がその後値上がりするかどうかの1点にかかっている訳です。

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また、ICOで、3時間で1.5億ドルを集めた事例もある一方で、ある調査によると、主要なICO48件のうち、表明したはずの製品やサービスが存在しない案件が全体の56%に達していたということです。

つまり、現状では、2点の問題点があるように思います。①ビジネスを見込んで資金を与えても、対価として得られる独自の仮想通貨の価値が上昇しないと損失を被るが、これは投資した側が引き受けるリスクとして正当なものなのかという点、②不特定多数の投資家から資金を集めるに際して、発行体が行おうとしているビジネスについて開示すべき内容が確立されていない、また市場自体も確立されていないという点。

しかし、ネットを見ていると(あるいは新聞でさえも)そういうリスクをきちんと説明することなくICOをもてはやす風潮があるように思えますが、極めて無責任な態度ではないかと思っています。

将来的には、(上記②の問題点への対処として)有価証券の定義を改正して仮想通貨も有価証券に含め、ICOも公募の規制がかかるようになるのではないでしょうか。
そんな頭の固いことばっかり言っていたら機動的な資金調達ができなくなり柔軟な発想を阻害するということかもしれません。確かに、現状は、IPOのように煩雑な法規制がないから(監査法人も要らないし、有価証券届出書も要らないし、主幹事証券も必要ないから)、低コストで資金調達できる点がICOのメリットであるにもかかわらず、公募と同様の規制をかけてしまうとそのメリットが全くなくなってしまい意味がないということになります。でも不特定多数から金銭的価値のある資産を集めようとする以上、野放図にすることはできず、一定の規制が必要と思います。現在の仕組みがコストがかかりすぎるということであれば、別途、インターネットなどで事業の仕組み、会社の状況などを公開することによって公募で資金調達できる簡易な取引市場の制度を整えればよいのではないでしょうか?(調達額に上限を設けるなどの制限が必要とは思いますが)

私がよく分からないのは、上記①の問題点です。ICOは投資ではなく単なる投機だというような言われ方もされていますが、発行体のビジネスモデルの成否と、発行される仮想通貨の価値の増減の間に因果関係があれば、それは投資だといってよいように思えます。しかし、ICO発行体のビジネスがうまくいくと、どうして、ICOによって発行された独自の仮想通貨の価値が上がるのでしょうか?私にはその辺りがよく分かりません。
この点、試しに現在ICOを行っているALISのWeb Siteを見てみました。その検討結果は後日記したいと思います。