ALISのICO

はじめに

前回の記事を書いて以降、政局が大きく動いています。安倍さんが衆議院の解散を目論んでいるという報道がなされ(そして実際に解散された)、さらに小池百合子東京都知事が新党(希望の党)の代表に就任し、さらには前原誠司民進党代表が、希望の党への合流を宣言し、またさらには合流できない枝野幸男氏などのリベラル系の民進党議員が新党(立憲民主党)を設立するなど、日本の政治は相変わらず「政局」優先でなかなか成熟しません。
そのような状況ですが、世の中の動きに筆がついていっておらず、今回は前回記述したICOについての自分の考えを続けます。

 

前回記したように、ICOには現状で二つの問題点があり、二つ目の問題点については前回、現時点における自分の考えを述べましたが、今回検討したいのは、一つ目の問題点、「ビジネスを見込んで資金を与えても、対価として得られる独自の仮想通貨の価値が上昇しないと損失を被るが、これは投資した側が引き受けるリスクとして正当なものなのか」という点です。

 

ICOで得られる対価の経済的価値~IPOの場合と比較して
IPO(Initial Public Offering=新規株式公開)の場合は、投資家は資金拠出の対価として、対象会社の株式を取得します。現在の株式会社制度においては、対象会社の事業が成功し収益を得ることができれば、株主はそこから配当を得られます(必ず配当がなされるわけではありませんが)。このような収益を期待できる株式であれば、それは財産的価値があるということになりますし、自分がその株式を購入したときに比べ当該会社の事業が成長し(その株式から)大きな配当を得ることができるようになっていれば、株式の資産としての価値が上がりますので、購入時よりも高い価格で売却することができます。この経済的な仕組みが現在の株式市場を支えていることになります。そして投資家としては、対象会社の事業の成長性を判断すればよい、そこだけが自己責任だという信頼感を持つことができます。健全な投資市場のためには、この市場への信頼感は欠かせないと思います。

翻ってICOです。ICOにおいて対象会社が発行する独自の仮想通貨は、少なくともその時点ではよそで金銭に替わるものとして利用できるものではなく、またどこで使えるものではありません(中には、当該会社が提供するサービスを購入するために使えるケースがあるとは思います)。そうするとその仮想通貨自体に経済的な価値はありません。では、対象会社の事業が成長すると、この仮想通貨が経済的価値を有するようになるのでしょうか。

 

ALISのホワイトペーパー
もうすでにICOは終わってしまい、予定調達額を達成しましたが、ALIShttps://alismedia.jp/ja/index.html)のホワイトペーパーを読んでみました。
https://medium.com/@alismedia/whitepaperの要所を3分でお伝えする-fff453986ebe

 

ALISは、要するにWebメディアのようです。ミッションとしては、「世の中からステルスマーケティングや広告まがいの記事、信頼性の低い記事をなくす」ことにあるとされています。そのために、「多くの人々がいいねと思う良質な記事を投稿した人、またそのような記事を真っ先に探し出して「いいね」をした人に対して、より多くのALISトークンを配布」する仕組みとしています。そしてALISのプラットフォームの価値があると認められるようになればALISトークンが価値を持つようになり、(取引所にALISが上場した場合には)ALISトークンが高値で取引されるようになる、としています(ALISのホワイトペーパー日本語版11~12頁)。なおALISは9月末にcoinexchangeへの上場が認められたようです。

 

ALISトークンの問題点
ここで問題は、2つあります。1つは、ALISトークン自体は全く利用価値がないにもかかわらず(このことは、ALISがホワイトペーパーの中で認めています)、なぜALISのプラットフォームが世間で評価されるようになるとALISトークンが経済的価値を持つようになるのか、という点です。
もう1つは、仮にALISトークン自体に何らかの経済的価値があった(あるいは生じた)としても、ALISトークンが無限に発行され得るものであれば、ある投資家が持っているALISトークンの価値は発行数の増大に従ってどんどん下がって行ってしまうのではないかという点です。

 

なぜALISトークンが経済的価値を持つようになるのか
1点目の問題について。
この点について、ALISのホワイトペーパーでは特に説明がなされていません。単に、ALISがそのビジネスモデルを参考にしたSTEEMにおいて実証されている、という説明だけです。しかしなぜSTEEMにおいて独自の仮想通貨が価値を持つようになったかの検証なく、「STEEMがそうなったからALISもそうなり得る」と言われても、全く説得力はありません。たとえALISトークンが仮想通貨取引所での上場を認められても、高値で取引をされるためには、取引所におけるALISトークンの需要が大幅に増加する必要があります。
では、ALISトークンの需要が大幅に増加する要素は何か。ALISトークンを多数持っていれば、ALISにおいてどのようなメリットがあるのでしょうか?
この点、メリットの一つとしては、ALISトークンを多数持っていれば、ALISへの記事の投稿あるいは記事の評価によって報酬を受け取る際に、投稿者・評価者のベースポイントが増え、報酬が増える、というメリットが考えられます。しかし、いくつかのネットでもすでに分析されていますが、ALISトークンを多数持つことによる「報酬増加」メリットは、インセンティブとしてあまり機能しているように思えません。受け取れる報酬が決まる過程において、自身のALISトーク保有量が影響を与える度合いがかなり低いからです。
次のメリットとしては、ALISトークンを多数持っていれば、ALISの運営方法について何か決定する事項が生じたときの発言力が増すという点です。この点、ALISのホワイトペーパーにおいても、「・・・ALISトークンの所有量に応じた投票を実施し、コミュニティの総意(51%以上の同意)を持ってパラメータを変更する運営方法を取ることを将来的には検討している」とあります。しかし、そのような発言力を目当てにALISトークンを購入する投資家が殺到するとも思えません。そのためには膨大な資金力が必要となると思われるからです。
事業の成長とALISトークンの価値上昇との間の因果関係が説明できないとすると(あるいは関係ないとすると)、仮にALISトークンの価値が将来何らかの事情で上昇したとしても、それは事業の成長とは関係のないところで(もっと極端に言えば、あるいは飛躍して言えば、全くの偶然の要素で)価値が上がったということになります。そうすると、ALISに資金を拠出する投資家としては、ホワイトペーパーを見てビジネスモデルを評価するなんてことは必要なくなります。要は、ALISトークンという新規の仮想通貨を購入すれば、将来何らかの事情で(ビットコインイーサリアムと同様)価値を有するようになり、仮想通貨取引所でビットコインイーサリアムと高値で交換できるようになるかもしれないという、まさに「投機」として資金拠出を行うということになります。

 

ALISトークンに生じる希釈化の問題点について
さらに2つ目の問題点について。
ALISのホワイトペーパーを見る限り、新規発行の際のインフレ率は(ALIS Wallet内のトークン総量に対して)50%とされているけれどもALISトークンの発行総量自体に限度はないようです。
そうすると問題は、各投資家が保有しているトークンに、いわゆるdilution(希釈化)が生じるということです。
いうまでもなく、市場で流通している商品あるいは通貨については、需要と供給の関係によって価値が増減します。日銀の大幅緩和策によって通貨供給量が増え、インフレになったり円安になったりするのも同じ原理です。
そうすると、仮にALISトークンが将来何らかの経済的価値を有するようになったとしても、その後とめどなく新たなトークンが発行され、トークンの発行量増加に伴う希釈化を上回る価値上昇要因が提供されない限り、トークンの価値は下がるはずです。ALISのホワイトペーパーを見ても、このような事象への対策の説明はありません。

 

終わりに
 以上、ALISのホワイトペーパーを検討してみて感じた問題点を記述しました。その結果、私としては、このプロジェクトに資金拠出することはない、というのが結論です(すでに資金拠出の期間は終わってしまいましたが)。